一ツ瀬ダムは、宮崎県西都市に位置し、二級河川・一ツ瀬川水系に建設された高さ130メートルのアーチ式コンクリートダムです。このダムは九州電力の発電用ダムであり、同社の水力発電所である一ツ瀬発電所に水を供給し、最大で18万キロワットの電力を発生させます。また、ダム湖(人造湖)の名称は「米良湖」と呼ばれています。景観の美しさや観光スポットとしても注目されており、宮崎県の観光地の一つとなっています。
一ツ瀬ダムは、1963年に西都市などを流れる一ツ瀬川に建設されました。高さ130メートル、長さ415.6メートルを誇るこのダムは、アーチダムとしては日本国内でも屈指の規模を持ち、その巨大なコンクリートのアーチが周囲の山々に映える美しい景観を形成しています。また、ダムの左岸、右岸、中央にはクレストゲートが配置されており、このゲートを通じて洪水時には大量の水を効率的に排出する仕組みになっています。このダムは洪水調整機能を持ち、地域の治水対策にも貢献しています。
一ツ瀬ダムが作り出したダム湖、米良湖は総貯水容量2億6131万立方メートル、湛水面積686ヘクタールという大規模なものです。九州最大級の水量を誇り、その貯水は九州電力が運営する一ツ瀬発電所へと送られます。この発電所は下流約3キロメートルに位置し、最大出力18万キロワットの電力を供給します。これは一般水力発電として九州最大の出力であり、地域のエネルギー供給において重要な役割を担っています。発電所では一ツ瀬ダムやその発電システムに関する資料が展示されており、見学者に対して詳細な説明が行われています。
一ツ瀬ダムの魅力は、その巨大なスケールだけではありません。アーチダムの美しいデザインは、訪れる人々に強い印象を与えます。特に、下流からダムを眺めると、左右の岸と中央に配置された3つのクレストゲートが、左右のゲートがスキージャンプ式の洪水吐となっていることから、バランスの取れた美しい景観を見せています。特に水が放出される際には、その迫力ある水流とアーチの造形美が相まって、圧倒されるほどの光景が広がります。
一ツ瀬ダムはその美しいデザインと機能性により、日本ダム協会が選定した「日本100ダム」にも選ばれています。これにより、ダム好きの観光客や写真愛好家が訪れる人気スポットとなり、多くの人々にその美しさと規模の大きさが認識されています。ダムの形状と周囲の自然が融合した風景は、訪れる人々に感動を与えるでしょう。
一ツ瀬ダム周辺を訪れる観光客にとって、必見のスポットの一つが「一ツ瀬ダム展望所」です。国道219号線沿いに位置するこの展望所からは、ダム全体のアーチ構造や対岸の風景を一望することができます。展望所からの眺めは、特に天候が良い日には圧巻で、ダムの巨大さを実感することができる場所です。また、四季折々の自然の変化とともに、ダム周辺の景色も異なる表情を見せるため、何度訪れても新たな発見があります。
米良湖は、釣り愛好家にとっても魅力的なスポットです。特にヘラブナ釣りの名所として知られ、巨ベラ(大きなヘラブナ)が釣れることで全国的に有名です。50センチメートルを超える大物が釣れることもあり、多くの釣り人が腕を試すために訪れます。湖畔での静かな釣りの時間は、ダム湖ならではの穏やかな雰囲気の中で自然を満喫できるひとときです。
一ツ瀬ダムを訪れる際には、ダム周辺の観光もおすすめです。西都市は、古墳や歴史的建造物が点在する地域で、歴史好きにはたまらないスポットが多くあります。特に、国指定史跡である「西都原古墳群」は、日本最大級の規模を誇る古墳群で、その広大な敷地と美しい風景は、一見の価値があります。ダム観光と合わせて、西都市の歴史と文化を感じることができる観光ルートも楽しんでみてください。
一ツ瀬ダムは、発電をはじめ、洪水調整や水資源管理など、多岐にわたる役割を果たしています。九州電力の発電ダムとして、安定した電力供給を支え、また洪水時にはその巨大な貯水容量を活かして下流地域の洪水被害を防ぐ重要な役割を担っています。今後も、この地域における持続可能なエネルギー供給や自然環境の保全において、ダムの重要性は高まり続けるでしょう。
一ツ瀬ダム周辺の自然環境は非常に豊かであり、観光地としての魅力を保ちながら、環境保全にも力を入れています。観光客が増える中で、自然環境に与える影響を最小限に抑え、持続可能な観光を実現するための取り組みが行われています。例えば、米良湖周辺の釣り活動やハイキングコースなど、観光と自然の共存を図るための整備が進められており、訪れる人々がこの美しい景観を楽しみ続けることができるよう努力がなされています。
一ツ瀬川流域には、かつて槇ノ口発電所(1万キロワット)、村所発電所(8,000キロワット、現在は8,800キロワット)、下相見発電所(8,500キロワット)、一ツ瀬川発電所(9,000キロワット)といった小規模な水力発電所が存在していました。これらの発電所は流れ込み式または調整池式であり、九州電力は戦後の高度経済成長に伴う電力需要の増加に対応するため、一ツ瀬川に大規模な水力発電所の建設を計画し、1959年(昭和34年)10月に着手しました。
一ツ瀬ダムと一ツ瀬発電所の建設にあたっては、九州電力が1955年に完成させた上椎葉ダムや、1959年に発生したフランスのマルパッセダム崩壊事故の経験を踏まえ、当時最先端の建設技術を投入しました。事前に大型模型を用いた水理実験を行い、設計を最適化したほか、貯水開始までの河川水を素通りさせる仮排水路の性能を強化するなど、万全の対策が施されました。また、建設機械の導入により、労働者数の削減にも成功し、労働者のモラル向上も図られ、工事中のトラブルや犯罪も少なく抑えられました。
1963年(昭和38年)4月2日にダムへの貯水が開始され、同年6月には一ツ瀬発電所が運転を開始しました。しかし、この工事中に41名の労働者が命を落としたことも記録されています。また、既存の下相見発電所および一ツ瀬川発電所はこの工事に伴い廃止されました。
2013年(平成25年)10月25日には、河川維持流量を利用した一ツ瀬維持流量発電所(330キロワット)が運転を開始し、資源の有効活用が進められました。一ツ瀬発電所の最大出力は18万キロワットであり、これは上椎葉発電所の2倍に相当し、揚水発電所を除く一般水力発電所としては九州最大の規模を誇ります。また、日本国内の一般水力発電所としても10番目に大きいものとなっています。
一ツ瀬ダムは、東九州自動車道・西都インターチェンジから国道219号(米良街道)を北西に進んだ先に位置しています。西都市の中心市街地を経由して杉安峡に入り、その先にダムがあります。一ツ瀬ダムは、両岸からのスキージャンプ式洪水吐きと堤頂中央部分の越流式洪水吐きを備えた構造となっています。
ダム上流部の左岸には、かつて九州電力が運営していた一ツ瀬発電所資料館がありました。この資料館では、発電所建設の歴史や水車発電機、選択取水設備などの構造が模型を用いて紹介されていましたが、経営再建策の一環として2014年(平成26年)3月9日に閉鎖されました。同年6月には、地元住民による地域交流拠点がオープンしています。
また、一ツ瀬ダムの堤頂は歩道として利用されていますが、一般の立ち入りは制限されています。ダムの建設により誕生した米良湖は、その規模で西日本最大のダム湖となり、ダムから22.5キロメートル先まで広がり、5.6平方キロメートルの土地を水没させました。
一ツ瀬ダムの建設に伴い、地元の東米良村では反対運動が起こりましたが、地区ごとに意見が分かれ、九州電力との補償交渉において最終的には1961年(昭和36年)までに全地区が建設を受け入れることとなりました。ダムの完成により、多くの民家や農地、道路、学校などが水没し、東米良村は西都市および木城村(現・木城町)への合併の道を選びました。
また、宮崎県は戦時中に収容された公営水力発電所の返還を求め、旭化成は自家発電所用の取水堰が水没することに対する補償を求めましたが、これらの争いも交渉によって解決されました。
一ツ瀬ダムの下流には、九州電力が管理する高さ39.5メートルのアーチ式コンクリートダムである杉安(すぎやす)ダムが位置しています。このダムは、一ツ瀬発電所で使用された水を逆調整するための池を形成し、放流された大量の水が下流に悪影響を及ぼさないよう、一時的に貯えた後、杉安発電所(1万1,500キロワット)を経て下流へ放流されます。杉安ダムは一ツ瀬ダムと同時期に建設され、1960年(昭和35年)に着工し、1963年3月に杉安発電所の運転が開始されました。
一ツ瀬ダムでは、降雨による出水で濁流が流入し、ダム湖に濁水が発生することが頻繁にありました。これに対して、九州電力は1971年(昭和46年)に選択取水設備を設置し、ダム湖の水を任意の水位で取り入れられるようにしました。この設備により、濁水が発生した際には深層部から取水し、表層部には清水層を形成することで、濁水問題の早期解消が図られています。
選択取水設備は設置後も改良され、1993年(平成5年)にはさらに深い層から取水できるように改良されました。また、2002年(平成14年)には、深層部にたまった濁水が表層部に巻き上げられることを防ぐフロート式取水流速低減設備が設置されました。
ダム湖へ流入する河川には濁水制御膜が設置され、河川から流入する土砂が堆積することを防ぐため、定期的に砂利が投入されています。これらの対策により、一ツ瀬ダムでの濁水問題は改善されてきました。