豫章館は、宮崎県日南市飫肥城址の大手門の前に位置する歴史的建造物です。この建物は日南市飫肥伝統的建造物群保存地区内にあり、日南市の指定文化財にも指定されています。江戸時代後期からの歴史を持ち、格式の高い武家屋敷としての特徴を残しています。
豫章館は、江戸時代後期に飫肥藩の藩主であった伊東家一門の主水家の屋敷として建てられました。1869年(明治2年)、第14代藩主・伊東祐帰が藩知事に任命された後、城内から父・祐相とともにこの屋敷に移り住みました。屋敷の名称「豫章館」は、邸内にあった樹齢数百年の大楠(おおぐす)に由来し、祐相によって名付けられました。
1983年(昭和58年)、伊東家から日南市にこの屋敷が寄贈され、現在では日南市の重要な文化財として保護されています。豫章館は、飫肥地区に現存する武家屋敷の中でも特に江戸時代の面影を色濃く残す建物です。
豫章館は飫肥藩で最も格式が高い武家屋敷とされています。大手門前に位置し、薬医門と屋根付きの堀に囲まれています。屋敷は母屋、雑舎、二棟の蔵、御数寄屋(ごすきや)で構成されており、母屋はL字型に6部屋が配置されています。
玄関には千鳥破風(ちどりはふ)の屋根があり、主玄関と脇玄関の二つが設けられています。主玄関の入り口には、伊東家の家紋である「庵木瓜紋(いおりもっこうもん)」が刻まれており、屋根瓦には「庵木瓜紋」に加えて「月星九曜紋」が見られます。これらの紋章は、伊東家の威厳と歴史を感じさせます。
屋根は茅葺き(かやぶき)で、下屋根は飫肥瓦(おびがわら)で作られています。この瓦は、台風時の強風や豪雨に耐えるように漆喰で固定されています。また、建物は良質な飫肥杉を使用しており、特に前庭に面する廊下の柾目板(まさめいた)には樹齢数百年の材が使われています。
飫肥は高温多湿の気候であるため、豫章館は高床式の設計が採用されています。この設計により、建物内部の湿気を防ぎ、住環境を快適に保つ工夫がされています。こうした点も、歴史的な建物としての価値を高めています。
豫章館の庭園は、飫肥城下に現存する庭園の中で最も規模が大きく、見応えがあります。主屋が伊東祐帰によって移り住まれた際に改築されていますが、もともとは主水家の庭園が基盤となっていると考えられています。この美しい庭園もまた、日南市の指定文化財に指定されています。
豫章館は、1983年10月1日に日南市指定文化財として指定されました。また、庭園も同日に指定されています。この建物と庭園は、地域の歴史や文化を後世に伝えるために保護されており、訪れる人々にその時代の雰囲気や生活を感じさせます。
豫章館は飫肥城址の大手門の前に位置しているため、訪れた際には飫肥城の遺跡も一緒に見学することができます。飫肥城はかつての城下町の雰囲気を色濃く残し、武家屋敷や歴史的な建造物が点在しており、歴史好きにはたまらないエリアです。
最寄り駅は飫肥駅であり、ここから徒歩やタクシーで豫章館にアクセスすることができます。飫肥駅は九州旅客鉄道(JR九州)の駅で、宮崎県日南市星倉に位置しています。交通の便も良く、観光客にとって訪れやすい場所です。
豫章館は、江戸時代後期からの歴史を感じさせる格式高い武家屋敷であり、日南市の指定文化財として大切に保護されています。庭園や建物の細部には、当時の技術や美意識が反映されており、訪れる人々に飫肥地区の歴史を語りかけます。飫肥城跡や周辺の観光スポットと合わせて、ぜひ訪れてみてください。