上椎葉ダムは、宮崎県東臼杵郡椎葉村に位置する二級河川・耳川の本流最上流部に建設された発電用ダムです。九州電力が管理するこのダムは、高さ111.0メートルのアーチ式コンクリートダムであり、日本初の100メートル級大規模アーチダムとして、後の日本の土木技術に多大な影響を与えました。このダムは耳川水系の水力発電所群の中核をなし、ダムに付設された上椎葉発電所から最大9万キロワットの電力が北九州工業地帯へ送電されています。
ダム湖は「日向椎葉湖」(ひゅうがしいばこ)と名付けられ、小説家の吉川英治による命名です。2005年には地元椎葉村の推薦により、「ダム湖百選」に選ばれました。また、九州中央山地国定公園にも指定されており、宮崎県北部の主要観光地の一つとして、多くの観光客を引きつけています。2019年には「大規模アーチ式ダムとしての歴史的価値」から土木学会選奨土木遺産に選定されました。
上椎葉ダムは、1955年に完成した日本初の大規模アーチ式コンクリートダムです。このダムの特徴として、その構造が高さ110メートル、長さ341メートル、そして総貯水量9,155万立方メートルを誇ります。上椎葉ダムは発電用として九州の電力供給に重要な役割を果たし、特に戦後の復興期には北九州工業地帯への電力供給が急務となりました。このダムがその需要を支え、地域の経済発展に寄与したことは歴史的にも意義深いです。
日向椎葉湖は、ダムによって形成された人造湖であり、四季折々の美しさを映し出す湖として人気の観光スポットでもあります。ダムの近くには「女神像公園」という展望台があり、そこからダムと湖の壮大な景色を楽しむことができます。
上椎葉ダム周辺には、観光客に人気のスポットが数多く存在します。その中でも、ダムを見下ろす位置にある「女神像公園」は、訪れる人々に感動的な景色を提供します。公園には、ダム建設に伴い犠牲となった105名の方々を弔うための慰霊塔が建てられており、歴史的な背景を感じることができます。また、秋の紅葉シーズンや、11月に行われる観光放流のイベントでは、自然と人工の調和した景観を楽しむことができ、訪れる価値があります。
女神像公園は、ダムの壮大な景観を楽しむことができる絶好の場所です。この公園は高台に位置し、上椎葉ダムと日向椎葉湖を一望することができます。四季を通じて異なる美しさを見せる湖と周囲の自然が調和し、特に紅葉の季節には美しい色彩が湖面に映り込み、訪れる人々を魅了します。展望台からの眺望は圧巻であり、ダムファンだけでなく自然愛好家にも人気のスポットです。
上椎葉ダムでは、堤上を車で走り抜けることができるユニークな体験が可能です。車だけでなく、自転車でも通行可能なので、爽やかな風を感じながらのサイクリングも楽しめます。車や自転車で訪れる観光客にとって、ダム上でのドライブやサイクリングは特別な体験となるでしょう。途中で車を降りて記念撮影をすることもおすすめです。
上椎葉ダムの建設は、日本の土木技術において非常に重要なプロジェクトでした。特に1938年に完成した塚原ダムは、耳川流域での水力発電開発の道を切り開き、上椎葉ダムの建設への布石となりました。塚原ダムは、当時の日本で最も高いダムであり、その技術は後のダム建設に大きな影響を与えました。
耳川流域は、九州地方でも交通の便が悪い地域であり、上椎葉村と日向市を結ぶ道路が開通したのは1933年のことでした。この道路の開通により、耳川における水力発電の可能性が急速に進展しました。当初、耳川の水利権は住友財閥が取得し、北九州の工業地帯への電力供給を目的としていましたが、最終的に九州送電がその権利を引き継ぎ、耳川での発電所建設が本格化しました。
第二次世界大戦後、日本の復興において産業の再建は急務でした。北九州工業地帯への安定した電力供給が必要とされる中、上椎葉ダムの建設計画が再び進行しました。1946年には現在のダム建設地点で測量が開始され、1950年に本格的な建設が始まりました。ダム建設に伴い椎葉村の住民が移住を余儀なくされるなど、さまざまな困難がありましたが、最終的に日本初の大規模アーチダムとして1955年に完成しました。
上椎葉ダムは、日本で初めての100メートル級のアーチ式コンクリートダムとして建設されました。当時、海外では大規模なアーチダムの建設が進んでいましたが、日本では耐震性や洪水処理能力への懸念から、この形式のダムは建設されていませんでした。しかし、耳川流域の地盤が堅固な花崗岩であることから、経済性や安全性を考慮した結果、アーチ式が最適と判断されました。
アーチダムの建設には多くの課題が伴いました。特に耐震性や洪水処理能力に対する懸念がありましたが、これに対して日本の技術者たちはスキージャンプ式洪水吐きを採用するなど、独自の工夫を凝らしました。この方式により、洪水時の水のエネルギーを分散させ、ダムへの影響を最小限に抑えることができました。また、堅固な岩盤を活かし、厚肉アーチダムという設計が採用され、地震や水圧に対する安全性が強化されました。
現在も上椎葉ダムは九州電力によって運営されており、発電や観光地としての役割を果たし続けています。椎葉村のシンボルとして、多くの観光客が訪れるだけでなく、地域の電力供給においても重要な位置を占めています。今後も、上椎葉ダムは歴史的価値と機能的役割を持ちながら、地域の発展と自然環境の保護に貢献していくことでしょう。