椎葉村十根川は、宮崎県東臼杵郡椎葉村に位置する、日本の文化と自然が調和した美しい山村集落です。この地区は1998年12月25日に国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、今もその歴史的な風景を保っています。約39.9haに及ぶこの地区は、十根川集落と大久保集落から成り、周囲を山林に囲まれた静寂な環境が広がっています。標高550m前後の緩やかな南斜面に、集落の家々や農地が点在し、伝統的な「椎葉型」の民家と美しい石垣がその特色を際立たせています。
椎葉型民家とは、この地域特有の建築様式であり、一列平面形式の細長い家屋が特徴です。主屋は「どじ(土間)」、「うちね(居間)」、「でえ(客間)」、「こざ(仏間)」といった部屋が横に並び、広々とした間取りとなっています。こうした家屋は、険しい山々に囲まれた地形に対応するために発展してきたもので、屋敷地は石垣で支えられています。さらに、家屋に付属する馬屋や倉庫も重要な役割を果たしており、火災を防ぐため、倉庫は主屋から少し離れて建てられています。
椎葉村十根川の石垣は、集落全域にわたって築かれ、その中には高さ4m、長さ40mを超えるものもあります。これらの石垣は、古くから山間の厳しい地形に対応するために作られたものであり、緑豊かな山林と調和して独特の美しい景観を形成しています。石垣は、乱積みという技法で積まれており、職人の高い技術を感じさせます。これらの石垣は、住居や農地を支えるだけでなく、集落全体の景観を引き立てています。
十根川神社は、十根川集落、大久保集落、椎原、鹿野遊、内の八重の五集落を氏子とし、縁結びの神様として地元の人々から深く信仰されています。神社は、椎葉村の歴史的なシンボルでもあり、かつてこの地に平家の残党が隠れ住んだという伝承も残されています。那須大八郎が陣屋を構えた場所としても知られ、神社の存在は村の歴史と深く結びついています。また、椎葉村に伝わる古文書『椎葉山由来記』や『椎葉山根源記』には、平家の追討使がこの地に陣を敷いたことが記されており、これにより「椎葉」という地名が生まれたと伝えられています。
十根川集落は、山の急斜面に位置し、標高550m前後の谷間に広がっています。住民は自然と共に暮らし、厳しい地形にも対応しながら農業や林業を営んできました。特にこの地域では、石垣を駆使して平地を作り出し、上段にある民家は下段の民家の屋根より高い位置に建てられています。このようにして、村人たちは限られた土地を有効に活用し、自然と調和した生活を送ってきたのです。
椎葉村十根川周辺には、数多くの文化財と自然の名所が点在しています。特に八村杉や大久保のヒノキ(いずれも国指定天然記念物)は、この地域を訪れる観光客にとってのハイライトです。これらの巨木は、自然の偉大さと時間の流れを感じさせる存在であり、周囲の景観とともに訪れる者の心を打ちます。また、十根川神社は縁結びの神様として人気があり、特にカップルや家族連れにおすすめのスポットです。八村杉や十根川神社までは徒歩5分程度でアクセスでき、自然散策と歴史探訪の両方を楽しめます。
椎葉村十根川へのアクセスは車が主な交通手段となります。宮崎空港からは東九州自動車道を利用し、日向インターチェンジ経由で国道327号および国道265号を進んで約3時間、熊本空港からは国道443号および国道218号を通り約2時間で到着します。公共交通機関を利用する場合は、JR九州の日豊本線日向市駅や延岡駅から車でアクセスできますが、それぞれ約1時間45分から2時間15分程度の距離です。
椎葉村周辺には、観光客が楽しめるスポットが数多くあります。椎葉厳島神社や那須家住宅(通称:鶴富屋敷)は特に人気の高い観光地で、歴史的な背景と美しい建築が魅力です。さらに、上椎葉ダムや椎葉民俗芸能博物館、松尾の大イチョウなど、自然と文化の両面から楽しめる場所が豊富です。特に椎葉民俗芸能博物館では、この地域の伝統的な文化や生活様式を学ぶことができ、村の歴史や文化を深く知ることができます。
椎葉村十根川は、その独特な自然景観と歴史的建造物が調和した美しい山村集落です。「椎葉型」と呼ばれる伝統的な民家や、職人の技が光る石垣など、訪れる者にとってはまるで野外博物館のような感動を与えます。また、自然に囲まれた静かな環境で、古来からの歴史と文化を体感できる場所として、観光客にとっても特別な場所となっています。訪れる際には、椎葉村の豊かな自然や文化を楽しみながら、その魅力を存分に味わってみてください。